マニュアルは、誰に向けて制作するものでしょうか。取扱説明書であれば、その製品をまだ使ったことのないユーザー。業務マニュアルであれば、まだ業務を覚えきれていない従業員。
つまり、「分からない人」です。
分からない人に伝えるためには、独りよがりの文章では上手くいきません。イメージとしては『小学6年生の子どもが読んでも分かるくらい』を意識して臨んでみてください。それでようやく、大人が読んでも何とか理解できる…くらいの文章になるはずです。
主語と述語を明記し、具体的に書く
マニュアルでたまに見かけるのが「対応する」「取り組む」「作業する」などの表現。抽象的な言い方で、具体的にどんな動作をするのかがわかりません。なんとなく仕事の概要はつかめますが、最終的な各人の行動にはブレが生じてしまいます。
例えば、「来社したお客様に対応する」という書き方を直すとすると「窓口担当者が、来社したお客様に対して、ご来客シートに記入いただくよう促し、会議室までご案内する。その後、お茶を出す」といったように、主語述語を明確にして記載します。
さらに細かく「荷物や上着は会議室の棚を使ってもらうように伝える」「席に掛けてお待ちいただくように伝える」など、挙げていけば多岐に渡りますが、誰でもが同じ品質で作業できるようにするためには必要なことです。
例えば、営業のトークマニュアルでも、厳密に一語一句が規定されています。これは、トークの基礎力がない人が、自分の思う通りの言葉を発してしまいトーク品質が下がるのを避けるためです。
もちろん経験を積みトーク力が上がったり、お客様との関係性が構築できたりした場合には、マニュアルにただ従う必要はありませんが(その場合は、今のマニュアルの改善が必要なのかもしれません)、具体的な記述は、誰もが一定以上の品質で行動できるための「標準化」のために不可欠なものなのです。
ほかにも、抽象的な言い回しとして「長時間」「少し」など、程度を表す表現が挙げられます。人によってとらえ方が変わってしまうので、具体的に「1時間」「3個」など、ハッキリした数で表記するようにします。
専門用語を使わず「小学6年生でも分かるように」を意識する
業務マニュアルは原則、関係者向けに用意するものです。従って、ついつい専門用語を使ってしまいます。逆に、専門用語を使わずには上手に説明ができない、ということもあるかもしれません。
しかし、専門用語に対する習熟度は人それぞれです。『学んでいないほうが悪い』という考え方もあるかもしれませんが、マニュアルの本来の役割に照らし合わせると、残念ながらそのスタンスでは効果的なマニュアルの活用ができません。
習熟度が低い人でも読んで分かるように、いやむしろ、習熟度が低い人だからこそマニュアルが必要なので、専門用語を使うのをグッと堪えてください。パッと手に取って読んだ人が『??』と困惑するようでは、マニュアルが役立っているとは言えません。
また、専門用語だけではなく社内で慣用的に使われている言葉も避けたほうが無難です。筆者がかつて所属していた企業では、情報共有することを『展開する』と呼んでいました。後に、意外といろんな企業さんの中で使われているらしいことを知りましたが、当時は社外の人の前で使って、若干『?』という雰囲気になってしまったこともあります。このように、自分たちの間だけでしか通用しない言葉がないかチェックし、上手く言い換えられるように工夫してみてください。
ここにこだわるかどうかで、読みやすさは格段に変わります。
もちろん、専門用語を使わないと文字量が無駄に増えすぎるということもあるかもしれません。その場合は巻末に用語集を設けたり、ページの下に脚注として解説を載せたりするとよいでしょう。
漢字は適切に「ひらく」
漢字をたくさん使うと、読みづらい文章になることが多くあります。
例えば、上記の1行を漢字にすると
漢字を沢山使うと、読み辛い文章に成る事が多く有ります。
…となります。ちょっと、適切とはいえないですよね。
マニュアルでは、漢字を使いすぎずに読みやすさを重視して適度なバランスで平仮名にします。この『漢字→平仮名』の書き換えのことを『ひらく』といいます。
ひらいた方が読みやすい漢字としては、『為→ため』『等→など』『事→こと』『時→とき』などが挙げられます。そのほか、一般的になじみの薄い難読な文字や言い回しも使わないようにしましょう。
マニュアル制作を複数の担当者で行なう場合、これらの書き方にバラつきが出てしまうことがあります。それを回避するために、表記統一表を作成し、どのように書けばいいのかの基本ルールを共有しましょう。まさに、マニュアル制作のためのマニュアルですね。