海外向けのリリースや多言語サポートが当たり前になった今、マニュアルの翻訳品質は製品体験そのものを左右します。とはいえ、最初に何から取り組めばよいか迷うことも多いはず。
そこで本記事では、依頼前の準備から原稿の整え方、進行・納品時のポイントまで、マニュアル翻訳をスムーズに進めるための流れとコツをご紹介します。
目次
Step①翻訳の目的と範囲を整理する
最初に全体像を軽く整理しておくと、どこから着手すればよいかが見えてきます。ここで決めるのは、「何を翻訳するか」「どこまでを対象にするか」「いつまでに必要か」「どの言語にするか」の4点です。
目的を明確にする
たとえば「製品Aの取扱説明書を米国の新規顧客に向けて整備する」「サポート問い合わせを減らすため、英語版で初期設定を分かりやすく説明する」といったように翻訳の狙いをまとめておくことで、関係者の意識をそろえることができます。
「誰に何を伝えるか」まで細かく明確にしておくことで、後の表現や優先順位づけもスムーズになります。
範囲と期限を具体化する
翻訳の対象となる範囲は、「1〜5章」「安全上の注意とセットアップ」のように章やページで区切り、含めない範囲もあわせて明記します。
期限は一つに絞らず、「初校の提出日」と「最終納品日」の2軸で設定しましょう。たとえば「初校は3月10日、社内確認に2日、再提出は3月14日、最終は3月20日」というように、社内レビューに必要な日数も逆算しておくと、無理のない計画を立てられます。
言語と納品形式を決める
翻訳言語は地域まで含めて指定しましょう。たとえば、英語なら米国向けか英国向けか、中国語なら簡体字か繁体字か、などです。ここが曖昧だと、のちの表記や例示の前提がずれてしまいます。
また、納品形式(編集可能なデータとPDFの両方が必要か、図版やスクリーンショットは個別ファイルで受け取りたいかなど)も事前に決めておきましょう。
これらの情報をまとめて依頼先に共有することで、以降の見積や進行の基準となります。
Step②原稿を整え、共有事項を整理する
依頼の前に原稿へ少し手を加えるだけで、翻訳後の修正ややり取りを大幅に減らすことができます。ここでは、原稿を整えるポイントと、依頼先への共有事項のまとめ方をご紹介します。
一文を短くして誤解を防ぐ
一文に手順や条件を詰め込みすぎると、翻訳時に解釈が分かれやすくなります。動作は切り分け、主語と対象をはっきり書くのが基本です。
たとえば、「必要に応じて設定を変更して保存してください」という文章では、誰がどの画面で何をするかが曖昧です。「設定を変更する。[保存]をクリックする。」と二文に分けることで、文章の意図が明確になります。
また、「です・ます調」「体言止め」など、語尾の統一ルールも事前に決めておきましょう。
表記を統一する
同じ意味であるにも関わらず表記が揺れていると、読者が迷ってしまったり、翻訳時に別物として扱われてしまったりすることがあります。括弧の使い方、英語併記、数字や単位、日付の表し方など、最初に表記ルールを決めておくのがよいでしょう。
この時点ですべてを完璧に決める必要はありません。迷いやすいところを先に決めておくだけでも、後の工程がスムーズになります。
画像・図に文章を埋め込まない
図中に文章を直接入れると、更新や翻訳のたびに画像を修正する手間が発生します。文章は本文に置き、図には番号を振って短いキャプションで補うようにしましょう。
スクリーンショットは言語によって見た目が変わることが多いため、操作の流れは本文で説明し、図は理解の助けとして添えておくと再利用がしやすくなります。
共有メモを作成する
依頼先とスムーズにやり取りをするために、以下のような迷いが出そうな項目を一枚にまとめた共有メモを用意しましょう。
- 句読点や数字、単位の表記ルール
- よく出てくる用語の表記方法
- 過去版や参考資料の所在
共有メモの作成時には担当者名と日付も記載し、更新時は変更箇所だけ追記していく形にすることで、次回以降の案件にもそのまま活用することができます。
▼マニュアルの原稿作成で意識すべきポイントについては、以下の記事で詳しくご紹介しています。
Step③翻訳から納品までの進め方
翻訳が始まってから納品までの工程では、依頼先とのやり取りにおける確認すべき点を整理することが重要です。
「言葉と内容を分けて見ること」「連絡を一元化すること」「受け取るべき一式を先に合意しておくこと」の3点を押さえておくと、最後までスムーズに進行させることができます。
言葉と内容の確認を分けて行う
本翻訳が進みはじめたら、「言葉の確認」と「内容の確認」で切り分けて行いましょう。言葉の確認では、用語や表記がそろっているか、読む人にとって自然かどうかをチェックします。内容の確認では、手順の順番、ボタン名と画面の対応、仕様に対する説明の正確さを確かめます。
観点を分けてチェックすることで、見落としや修正の迷いを防ぎやすくなります。社内では、言葉の確認はライティング担当、内容の確認は製品担当が行う、といった役割分担も有効的でしょう。
やり取りは一元化する
疑問点や修正依頼は、メールのやり取りに埋もれやすく、対応漏れの原因になります。案件ごとに質問と回答、修正の履歴を集約し、依頼先との窓口は1人に固定すると良いでしょう。
誰がどの指摘に対応しているか、次に誰が何をするかが明確になるだけで、余計な往復を減らすことができます。やり取りの記録はそのまま次回の改善材料にすることもできます。
納品形態を事前に合意しておく
納品時に混乱しないよう、納品形態は事前に合意しておきましょう。Wordなどの編集可能なファイル、PDF、図版の元データ、前回からの変更点の一覧があれば、社内での再利用や次回の更新がスムーズです。
納品時の最終チェックでは、固有名詞・数値・単位・日付の表し方、手順の順番、体裁崩れを重点的に確認し、問題がなければ版番号と日付をそろえて確定します。
結果は共有メモに追記しておくと、次回以降もスピーディーに安定して進行することができます。
まとめ
本記事では、マニュアルの翻訳を外部に依頼するときの基本の流れと、迷いを減らすためのコツをご紹介しました。
しかし、これらを完璧に進めることにこだわる必要はありません。準備を整えておけば、あとは落ち着いて順番どおりに進めていくだけです。
今回ご紹介した流れやコツを参考に、マニュアルの翻訳や依頼に取り組んでみてください。
▼マニュアル作成の外注については、以下の記事で詳しくご紹介しています。

